■近くの病院にいったら妙になれなれしく話しかけてくる男性がいた。
「よー、しばらく。こんなところでお会いするなんて。お元気ですか?」
思い出せない・・。でもこの親しみのこもった話しぶりは・・。
年は同じくらい。車イスに乗っている。仕事関係? 私の脳の中で映画にでてくる犯人探しのプログラムを見ているように知人の顔がスクロールしてゆく。とまらない。男性はしゃべり続けている。
私は覚えていないことを悟られないようにとりあえず、
「えーっ、どうしたんですか?」といってみる。
「いやー、うちの〇〇(犬の名前)の散歩中に転んで足を骨折したら・・・」
分かった! 犬の名前で思い出した。〇〇ちゃんのお父さんだ。(犬友では飼い主が男の場合は”お父さん”、女の場合は”お母さん”というのが習わし)
冷や汗モノだったけど、そのあとは盛り上がった。
■犬友というのは不思議なもので仲が良くても名前も知らない。聞こうともしない。たまには世間話をしても、付き合いの中心は犬の話。だから犬を連れていない飼主同士が会ったり話したりはしない。
スーパーなどで犬友を見かけたこともある。場所が場所だけに大半は女性の犬友だが、こちらが目でサインを送っても、そのまま気付かずに行ってしまう。最初のころは腹がたった。
しかしいつだったか逆の立場になってサインを送られたとき気づいた。”犬友は犬とセットなのだ”と。
さらに散歩では、それなりにスタイルを決めている。特に帽子。これもセットで記憶している。
実はこの日、私は散歩時と同じスタイルをしていたが、男性の犬友にはそのセットがなかった。
もしかしたら人の記憶とは何かとのセットで成り立っているのかもしれない。だから犬を連れず帽子もかぶらない犬友とは半透明な友達のような不思議な存在だと思った。
*写真は昨年春のもの。今は雪でこの場所には行けません。