B-STYLE

[身近なモノの取合せで暮らしを満喫する]  [時の経つのを楽しむ] [偶然を味方にする] それらをBスタイルと呼ぶことにしました。

2013/04/25

フランス映画「遥かな町へ」 原作は日本の漫画だった

ツタヤでDVDを選ぶ時は動物の本能のような嗅覚が必要だ。4枚に1枚ぐらいは当たる。フランス映画「遥かな町へ」を借りて見た。感動!
思春期にタイムスリップする中年男の話。

パリに住む漫画家が、気がつくと自分の故郷の町に来てしまうところから物語は始まる。そして母の墓の前で彼は少年時代にもどる。
家には亡くなる前の母、妹、家出する前の父がいた。思春期の少年に戻ってしまった主人公は、戸惑いながら自分の家族や友人達と過ごし始める。

あらためて過ごす思春期は新鮮だった。しかし主人公の心は中年男のままである。そのことを気づかれまいとする気持ち、元に戻りたいと思う気持ち、そして、のちに家族につらい思いをさせることになる父の家出の原因つきとめ、家出をを止めたい気持ちが描かれてゆく。

故郷の田舎町は郷愁を誘い、古い時代の車も観客を癒す。タイムスリップ物の定番だが再現されたフランスの田舎町は行ってみたくなるような雰囲気である。配役もしっかりしている。やさしく綺麗な母親、やんちゃな友人たち、憧れの少女など。そして美少年主人公の行動が物語を引っぱってゆく。

感動して見終わったあと、ネットで映画を調べて驚いた。原作は日本の漫画、谷口ジローの「遥かな町へ」だった! 谷口ジロー? さっそく漫画を注文。読んでみた。

最初は映画の印象が強かったのでなかなか原作に入り込めなかったが、しばらくして谷口ジロースタイルに慣れてくる。いい話だ。そこには映画の短い時間では語れないディテールが日本人らしい語り口で丁寧に描かれていた。

連載漫画には全編を何ページで終了などという制限がないので作者の思うように描き込める。時には寄道のような展開があり、そこからゆらめきのような物語が生まれる。それがフランスで気に入られているのかもしれないと思った。もちろん才能あってのことだが。

一方映画の脚本は上映時間に制限がある。読切の漫画に近い。連載漫画のエピソードをすべて盛込むことなど不可能である。確かに物語という点では原作の漫画のほうが分かりやすいし説得力もあった。

しかしこの映画、独自の視点がある。それが設定や物語の変更につながっている。

・主人公     映画:漫画家(アーティスト)原作:設計士(自営業)
・主人公の住まい 映画:パリ         原作:東京
・主人公の故郷  映画:フランスの田舎町   原作:日本の田舎町(倉吉)
・お祖母さん   映画:一人暮らし      原作:家族と一緒

タイムスリップへの導入、父らしき男とすれ違う場所なども違っている。思春期エピソードには、漫画には無かったシーンがある。少年と中年の主人公が同時に出てくる場面まである。これらはサム・ガルバルスキ監督の独自の表現方法であると同時に、フランスと日本の倫理観や人生観の違いのようにも思えた。実はこの映画、日本版だったら気持ちが悪いと思って見ていた。

この作品、映画も漫画もどちらもいい。
映画は、もっとテーマを強く出し、シンプルに物語を展開するハリウッド的手法もあると思うが、それをしないのがヨーロッパと日本のゆらめき文化だと思う。
できれば両方を鑑賞して2つの文化の共通点と違い、監督と漫画家の感性の違いを味わってほしい。