B-STYLE

[身近なモノの取合せで暮らしを満喫する]  [時の経つのを楽しむ] [偶然を味方にする] それらをBスタイルと呼ぶことにしました。

2013/07/24

映画「惑星ソラリス」 アンドレイ・タルコフスキー

作品
惑星ソラリスの研究中止か継続かを調査するために宇宙ステーションに派遣されたクリスが、ソラリスの持つ不思議な力によって、亡くなった妻に出会い、失っていたものに気づく話。アンドレイ・タルコフスキー監督(旧ソ連/1972年の作品)。

物語
主人公クリスは、惑星ソラリスに出発する前日、父の家に来ていた。彼は学者である。
昔から変わらない大きな池、湖畔にある家。そこにやって来たのは父の友人バートン。元宇宙飛行士だ。クリスはバートンからソラリスの報告映像を見せられるが特に興味は持てなかった。自分の見た物を信じてもらえなかったバートンは失望して帰途につく。

惑星ソラリスの軌道上に浮かんだ宇宙ステーションには3人の研究者が搭乗している事になっていた。しかし1人は自殺してメッセージだけが残っていた。そして宇宙ステーションにいるはずの無い少女と小人を見かける。彼らはソラリスが作り出した物体だった。やがでクリスの前に亡き妻ハリーが出現する。バートンの話は事実だった。

クリスはハリーをロケットに乗せて船外に発射するが再び出現する。やがて彼には彼女に対する不思議な感情が生まれてくるのだった。クリスはソラリスが持つ力を知る。そして科学でしか物事を見ようとしない研究者たちと、説明できない感情を大切にしたいと思うクリスとの間には溝ができる。ハリーは、自分がクリスの妻ではないことを気づきはじめる。

同僚の誕生パーティの夜。人間扱いをされないハリーは、研究者たちに「自分はあなた方よりも人間的であり、人間になりたい。」と語る。

その後ハリーは液体窒素を飲んで自殺をはかる。しかしソラリスの作り出した物体は、自分では死ねない。ハリーはクリスの感情に不安を感じるようになっていたのだ。

クリスも混乱する。クリスは夢の中でハリーを見る。そして若い母を。夢の中で場面は宇宙ステーションから古い家に移ってゆく。

目が覚めると、ハリーは消えていた。研究者に依頼して自分を消滅させたのだ。「だれも恨まないで。」というメッセージを残して。クリスは、地球に戻るか宇宙ステーションでハリーの再来を待つかなど考えてみるが結論は出ない。

気がつくとクリスは故郷の大きな池の前にいた。家があり、父がいる。しかしそこはソラリスの海に出来た島だった。

テーマ
人は生きてゆく過程で子供の頃の楽園から追放され、かなわない願望のために多くの過ちをおかし、苦しみに耐えながら、あるいは無理矢理肯定して矛盾に満ちた人生を送る。しかしそれらの願望や矛盾は人間の潜在意識下に格納されている。

惑星ソラリスは、この意識下に格納された願望を具現化する力をもっていた。
かたくなな主人公は、これまで封印してきた感情に向き合い、自分を見つめ直し、格納されていた意識は解き放たれる。失っていた感情を取り戻す。それは妻、母、そして最後は父親に対する感情だった。

シーンデザイン(はじめて観てから40年)
1.水草:この草のゆらめくオープニングシーンの良さは昔も今も変わらない。観客に映画を見る前の日常を忘れさせ、いつか見た光景を思い浮かべさせる。

2.湖畔の家:最初は家の新しさが気になったが、実は意図的なものだとわかる。父が気に入っていた祖父の家を再現したのだ。以前見たときは意図など気づかなかった。

3.ハイウエイ:当時、日本の首都高速が登場したときは安易だと思ったが、今見るとレトロでいい。都心までの長い高速道路は、文明が作り出した街と自然の中にある田舎との落差を表現してている。

4.車:これまで、車を運転していたのは主人公だと勘違いをしていた。バートンだった。この場面が長いのは、次の場面(夕方、私物を焼く。)までの時間の経過を表現したかったのか? 記憶を思い起こすバートン、記憶を始末しようとする主人公を対比的に描きたかったのか? 

5.妻の写真:夕方、クリスは庭で私物を燃やして旅の用意をする。亡き妻の写真を宇宙に持ってゆく事が、以後の暗示となっている。

6.宇宙ステーション内部のデザイン:40年前は、キューブリックの「2001年宇宙の旅」を見たあとだったので、「惑星ソラリス」はみすぼらしく思えたが、改めて見ると悪くなかった。むしろ最近のSF映画と比べ、荒廃した様子が中途半端なのが気になった。

7.図書室:宇宙ステーションの30秒の無重力状態はこの古めかしい図書室で描かれる。この映画一番の素晴らしいシーン。図書室の物が、そしてクリスとハリーが浮遊し始め、カメラは壁に飾られたブリューゲルの「冬景色」をパンし、最後に雪の上で焚き火をする幼いクリスの映像に変わる。原作にあるかどうか知らないが素晴らしい設定だ。

8.現実社会を感じさせる場面がわずかしかないので(記者会見の場のみ)、ほとんど主人公の1人称映画といえる。タルコフスキーの、といってもいいだろう。

9.ヒロインのハリーは、以前見た印象よりはるかに魅力的に思えた。自分が何者か分からず、何をしたいのかも、なぜ存在するのかもわからないまま生きている(?)というのはこんなに魅力的なのだと。

10.衣装、カメラワークは楽しめた。それ以上に台詞は良かった。

■最後に
タルコフスキーは、人間の潜在意識に格納された良心の記憶を呼び覚まし、科学と対峙させ、愛の姿を浮かび上がらせた。そして彼は、ソラリスの海も故郷の池の水も、格納庫の扉をあける力として永遠に存在し続けるのだと語っているような気がした。

■追記
この映画を考える時、思い浮かぶのがTV映画「火星年代記」(1980 TBS)。火星人は、強い地球人から身を守るために地球人の思い出の人間になりすます。そして地球人の故郷の家まで再現するのだった。また図書室のシーンやクリスの記憶をたどる映像には、映画「2001年宇宙の旅」の影響が感じられた。

・レイ・ブラッドベリ 「火星年代記」 1950
・スタニスワフ・レム 「ソラリス」  1961
・スタンリー・キューブリック 「2001年宇宙の旅」 1968
・アンドレイ・タルコフスキー 「惑星ソラリス」     1972

原作は読んでいないので映画についてだけ語ってみた。
原作の良さと映画の良さは別だと思っている。
また、以前は感じなかったが21世紀に暮らすようになって165分は”長かった

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