B-STYLE

[身近なモノの取合せで暮らしを満喫する]  [時の経つのを楽しむ] [偶然を味方にする] それらをBスタイルと呼ぶことにしました。

2012/12/01

RZ250の盗難事件


■バックアップ用HDを見てみたら、古いホームページの記事ができてきた。

RZ250

実際に乗ってみて、もっとも乗りやすかったのは、ヤマハの初代RZ250だ。
私の友人でカッコ良さではピカ一の男がいる。黒のRZ250を350にボアアップして、黒皮のつなぎを着て乗り回していたが、初代RZには、今でもこんな乗り方が似合うような気がする。

ある日彼が私の所にやってきて「坂口安吾の小説、”桜の森の満開の下”にちなんで、紀州の桜前線を見に行きたい。しばらくの間バイクを交換してくれないか?」と言う。そこで私のXL250を貸して、かわりにRZ250を預かることになった。

RZ250は、バックステップになっていて、チェンジペダルのシフト感が少なく、頼りなく思えたが、慣れてしまえば自然に感じるようになる。セパレートハンドルでポジションも楽、軽いので取り回しもよい。加速力やブレーキは素晴らしく、重心が低いのか、走行安定性も抜群。良く曲がり、全く恐くない。ライダーにこれほど自由な気分を与えてくれるバイクも珍しい。ただし、あっと言う間にスピードに乗ってしまうので、気をつけないと切符を切られてしまう。

ある夜、突然このRZ250がなくなった。
10時に帰宅して、バイクを家の前に置き、ひと休みしたわずかの間だった。
隣は本屋で、まだ店は開いていた。親父さんに聞いたが知らなかった。私は夢を見ているような気分になった。だがキーとヘルメットは手元にあった。犯人はバイクを押して運び去ったのだ。

本屋の親父さんは、今すぐ一緒に車で探してやる、と言ってくれたが、私は交番に知らせて警察で探してもらったほうが確実だと思った。本屋だって商売中だと思ったのだ。だがこれが間違いだった。

交番では、ナンバーがわからないと探せないと言うのだ。交番の電話を借りて友人の奥さんに電話する。「買ったバイク屋にナンバーを電話で聞いてみるが、今夜はダメかもしれない。」と言う。当然、友人は今何処にいるかわからない。(*ケイタイのない時代)

「犯人は今、200キロのバイクを押しながら逃げようとしている。そんなに遠くに行けるはずがない。どうしても探せないのか。」と言ってみても警官は受け付けてくれなかった。なんという事だ。パトカーに連絡が出来ないのだ。これでは見つかるはずがない。時間はどんどん過ぎて行く。私は家に戻り、本屋の親父さんに協力を求めた。

驚いたことに本屋の車で探すとRZ250はすぐに見つかった。明かりのない、狭い路地裏に止めてあったのだ。そこには誰もいなかった。この時の気持ちは一生忘れられない。なくした物は沢山あるが、出てきたことは後にも先にもこれ以外ない。もう一度、夢を見ているような気分になった。

私は、RZ250を押して自分の家に運んだ。本屋の親父さんにお礼を言い、庭に入れようとした時だった。通りの向こうでこちらを見ている怪しい男達がいる。私は直感的にRZ250を盗んだ連中だと思った。私はとっさに家に入り、長い棒を持つと、もう一度通りに出てみた。すると彼らは、スクーターに二人乗りして、目の前に来ているではないか。さすがに今度は相手も驚いて走り去った。なんて大胆な連中だ。しかしこちらも証拠があるわけではなかった。

RZ250のハンドルにロックをかけ、シートに包むと、私は友人の奥さんに電話した。そして再び交番に行って一部始終を話した。警官はバツが悪かったのだろう、自転車で飛び出していった。
私は家に帰り、ビールを飲んだ。こんなにまで若者が欲しがるRZ250とは・・。
そして、友人が早く東京に帰ってこないかな、と思った。XL250が、恋しくなっていた。
(札幌市立高等専門学校学内ページ 1997)