B-STYLE

[身近なモノの取合せで暮らしを満喫する]  [時の経つのを楽しむ] [偶然を味方にする] それらをBスタイルと呼ぶことにしました。

2012/11/11

逆さまに貼られた「福」

台湾担仔麺大王

逆さまに貼られた「福」

このところ東京に出かけると必ず行く店が新橋の「台湾担仔麺大王」。35年くらい前に見つけた屋台料理の店。

新橋はビジネス街なので、ここに来る客の9割はビジネスマン。会社帰りに女性社員を連れてきて、珍しい料理の話題をきっかけにして盛り上がるのが大半だ。残りは本当に店の料理の好きな客。私のように1人で来る客はめったにいない。

別に聞き耳を立てているわけではないが、大きな声で話し席も近いので自然に会話が聞こえてくる。ほとんどが会社の同僚や上司の話題で、私には仕事の続きのように思える。これなら飲食代は残業手当として会社の経費で支払われてもおかしくない。まあこんな話は特に気にしない。

しかし今日の2組の客は様子が違っていた。
大声で話す女性は、夫のノロケ話と所有地自慢を続ける。
定年間近の男は、何か会社に不満があったのだろう。「月100万円近い給料をもらってきたので貯金もあり、会社を辞めたい。」と、こぼす。それに怒る同僚。

なんとなく紹興酒にも腸詰にもひたれない。
店主は店先に立ち、ぼうっと彼方を見つめ、調理人は小さなモニタで映画を見ている。
35年間したことはなかったが、店の2人に声をかけてみる。

これまで無愛想だと思っていた彼らは、話してみると意外と親しみのわく台湾人たちだった。モニタはTVではなくiPadで、見ていたのはダウンロードした中国映画ということだ。店が出来たのは45年前、オーナーが亡くなり、今は日本人が経営しているらしい。私は立ちあがってタバコを吸いながら改めて店を見回す。

すると店の壁に変なものを発見した。「福」と書かれた紙が逆さまに貼られているのだ。なんとなく不吉だ。これは間違いか、知っていても気にしないのかと思った。聞いてみると、これは台湾の風習で、これで良いのだという。
「福」という紙を逆さまに貼ると幸福が天から降りてくるのだそうだ。逆さまの「福」が台湾中に貼られている光景が浮かんできた。自分にも幸福が降りてくるような気がした。再び腰掛けて紹興酒を飲み続けた。

支払いをしようと立ち上がると、いつの間にか客は私だけになっていた。




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