藤野の白樺会館の前にある小春堂。土曜日にマスターの病気の快気祝いパーティーにさそわれる。花とニセコの巨大ザクロ、南アフリカ産のシャンパンをもって行く。
この店にはチェロがにあう。チェリストの小島さん。
お酒が入ってダンスするポンタさん。この後彼女はクラリネットの演奏。パーティーは盛り上がる。
歌とギター演奏中。ガラス戸には店内を反射した像と、中庭の透過した像が映りこむ。
2つの像は酔うようにして交じりあう。
何年か前、家の近くにカフェができたというので行ってみら、私の好きなスズキ・コージの絵がいくつか飾ってあった。マスターの友人だという。私もスズキ・コージさんには学生時代にお会いしたことがある。それが話のきっかけになった。
すると、なんとなんとマスターは、かつて福生の米軍ハウスに住んでいて私の友人とも親しかった。大学時代は学生運動、本来はデザイナーと、共通点も多い。
後日、私の本をさし上げると、そこに出てくる"マサカヤ亭"のような店が理想だという。
まさかまさか、自分が生きている間にそんなことを言ってくれる人に出会えるとは思ってもいなかった。大感激。
現実とファンタジーの違いはあるが、小春堂の客は"マサカヤ亭"の客に似てないこともない。
パーティーには、多くの人(年寄り)が集まった。
バイク好きの山内さんは、かつて憧れのハーレーのミニチュアをつくるため、プラスチックパイプを温めて伸ばしてフレームを作ったり、アルミホイールを固めてエンジンのフィンを作った話に熱が入る。
昭和の話題では、テレビのチャンネルのつまみを足で回したり、14インチ画面を大きく見せるために取り付けたブラウン管の前の巨大レンズに盛り上がる。みんな同じことしてきたんだ。
この日は、若者はほどんどいなかったが、こんな話題では入っていくのは無理。
店はできてから数年経ち、高橋さんの料理の腕も上がったような気がした。うとうとしてくるまでお酒が飲めたら良かったが、私は1年前に酒をやめてしまったのでそうもいかない。一足先に店を出る。
こうして時間がたってみると、地域にとってこの店の存在は大きい。ここにあるのは町内会に入ったりサークルに参加するのとは違う人間関係だ。この店がなかったらそんな交流も生まれなかっただろう。
店は金を儲けたくてやっているわけじゃない、くらいの気概がないと続かない。
年に一度ぐらい夕方の中庭で、いつも流れている「ブルーベルベット」や「夏の日の恋」を聞きながら高橋さんとワインを飲めたらと思う。
*小春堂:北海道札幌南区にあるカフェ&バー。内装はすべて手作り。
*シャンパンと書いたがKWVのスパークリングワイン。
*スズキ・コージ:日本の天才イラストレーター。10代から「アンアン」で活躍。同世代だが私が学生だった頃、すでに巨匠だった。
*福生の米軍ハウス:村上龍の「限りなく透明に近いブルー」の時代。70年代のサブカルチャー聖地。
*"マサカヤ亭"は、「マサカヤ亭奇譚」(牛若丸出版)の舞台となる不思議なレストラン。
*14インチTV:60年代、現在の天皇の御成婚~東京オリンピックにかけて大ヒット。日本のマスメディア時代の夜明け。
*ブルーベルベット:1963年、ボビー・ヴィントンのヒット曲。デヴィッド・リンチ監督の同名映画で歌われる。
*夏の日の恋:1959年、パーシー・フェイス・オーケストラ。映画「避暑地の出来事」サントラ。