B-STYLE

[身近なモノの取合せで暮らしを満喫する]  [時の経つのを楽しむ] [偶然を味方にする] それらをBスタイルと呼ぶことにしました。

2012/10/30

映画「マドモアゼル」 Mademoiselle


ハイヒールを履き、レースの手袋をした女性が
こっそりと村の水門を開き、洪水を起こすシーンから映画は始まる。
この映画、観るのは何十年ぶり。

物語は単純だ。
フランスのある村で火災や水害が頻繁に起きている。犯人は結婚適齢期を過ぎた女性教師だが村人は気づかない。一方、村には見事な体格をしたイタリア人の木こりがいる。彼は子連れで転々とした人生を送ってきた。村に馴染もうと懸命だが、よそ者扱いを受け続けている。木こりの息子は女性教師の学校に通っている。女性教師はこのイタリア人が気になっていた。そしてとうとう二人は森で出会う。そして最後は・・。

純潔は気高くもあり苦悩でもある。気高い女性教師に背徳の炎が燃え上がる。そして欺瞞を繰り返す。しかし映画はこの物語について良いとも悪いとも言っていない。原案者ジャン・ジュネの毒に満ちた映画だ。

ハイヒール
レースの手袋
少年の膝
毛むくじゃらの男の裸体
乳首へのバンテージ
など、フェティシズムにあふれている。

ポルノグラフィやアダルトビデオとの違い:
性を扱いながら愛というものがない。かと言って性欲だけが暴走する映画でもない。あるのは欲望と禁欲の葛藤だ。性を描きながら裸体やセックスシーンがないために余計に性の精神面が強調されている。後半のラブシーンにもそれぞれ意味がある。これこそエロティシズムではないだろうか。ポルノグラフィに期待した観客は幻滅し不安を受け取ることになる。一般的な価値観に媚びた娯楽映画ではないのだ。

またこの映画と映像には気品がある。
ロケ地に本格的なセットを作り、燃やし、水の氾濫シーンを作り、多くの出演者と動物を登場させている。本格的なスケールのリアリズム映画だ。

ジュネの世界:
背徳と欺瞞に対するオマージュ。正直言って私は、ジュネ文学を理解しているわけではない。しかし私から見るとジュネは、社会人としての人間と生物としての人間とを対比させる事により、人間の不条理を語っているように思える。

若い頃は私も尖っていてこんな作品に出会うとすぐに心酔してしまったが、今は一歩引いた場所にいると思う。ただ映画の詳細について記述しようとすればするほどジュネ世界に引きこまれそうになり恐ろしい。

実はこの作品を見る前に映画「ビフォア・ザ・レイン」に感動し、語ろうとしていた。しかし「マドモアゼル」を見てそんな考えは吹っ飛んでしまった。良薬も毒には勝てないのか。

もしジュネの毒から回復できそうにないと感じてしまったら、次の映画を見ることだ。気に入った作品に出会えるまで。映画「マドモアゼル」は、人生という名のフルコース料理に出てきた1つの料理だと思えるまで。

時の経過にうまく付き合えることは人間の大事な能力の一つだと思う。
★★★★★

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