しげの秀一の漫画、頭文字D(イニシャルD)第46巻を読む。
■嬉しいこと
年に2回、すごく嬉しいことがある。東光ストアの書店から「”頭文字D”が入りました、とっておきますか?」と電話がくることだ。注文してもいないのに。
多分8年前にこの書店で「頭文字D 」の発売日を聞いたことがあり、一度だけ入荷時に連絡をもらったからだと思う。以後、注文したことはない。
連絡後、すぐに漫画を取りに行ったことがないので電話主には会えないが、今も同じ方が働いているのかもしれない。注文をしてないのに連絡してくれるなんて。昔のよき時代に戻ったようで嬉しい。計算すると16回になる。
この店員(40才代の女性)と話した時のことは忘れられない。この漫画を掲載している雑誌、掲載回数まで知っている。とても彼女が読むとは思えない漫画の事をどうして知っているのか不思議でならない。図書館の司書のように本の中身を知っており、読者の心理を心得ているなんて、素晴らしいことだ。
■ストーリー
この漫画については、下手なことを書くと炎上してしまうので、サラッとまとめておく。
群馬県の田舎町。峠のカーレースに夢中になっている若者たちがいる。彼らの乗る車は、一昔前のライトウエイトスポーツ。現代の車からすれば非力だが、この車をチューンしてドライブテクニックで峠最速になることを夢見ている走り屋たちである。
主人公の藤原拓海は豆腐屋の息子。車で豆腐の配達をさせられてきたおかげで、友人と違い運転にはまったく興味を持てないでいた。しかしあるきっかけからレースを引き受けるはめに。
レースに勝った拓海は走り屋に開眼する。豆腐の配達で養った経験と、かつての走り屋である父、文太のアドバイスにより下りレースの頂点に立つ。そしてライバルの啓介とともに、公道レース関東制覇の夢に挑む高橋涼介のプロジェクトDに参加するのだった。多くの峠のバトルを通じてナイーブな主人公は成長してゆく。
何十回読んだかわからないが、この漫画を読むとコンセントレーションが高まる。力をもらえる。「バスプロのスーパーバッシング」のラリー・ニクソンの記事と同様、私のバイブルだ。*
■社会現象
45巻までの発行部数は4700万部。アニメ化、映画化、ゲーム化されている。
貧しくても購入できる中古車をチューンナップして、自分のテクニックで高価な高性能車の挑戦を退けレースで勝利するという設定は、多くの若者と中年層に夢と希望を与えた。アメリカでも人気がある。
主人公の乗る車は1980年代に発売されたライトウエイトスポーツ、トヨタ・スプリンター・トレノ(マニアの間では、ハチロクと呼ばれている)。現代の車にはない魅力、それは軽さ、シンプルさ、後輪駆動によるドリフトである。
漫画は、多くのハチロクファンを生み、ハチロクの中古価格は上昇、ハチロク専門店まで出現する。漫画の中でレースのあったコースは、Googleマップにものっている。もちろん現実世界でこの車が現代の車に勝てるとは思わない。
そしてとうとう昨年、トヨタが、ライトウエイトスポーツの血筋としてFT86の生産販売を始める(スバルと共同開発)。この車が本当にハチロクの後継者かどうかは疑問だが、時代がまるで違うのでしかたがないだろう。「頭文字D」のハチロクの血筋を引いた車が出現するには、時代が変わる必要があるのかもしれないが、それはともかく漫画が製品を生み出した、あるいはきっかけを与えたことは確かだ。
(ヤンマガKCコミックス/講談社)
*「バスプロのスーパーバッシング」著者:内藤裕文 出版社:(株) ソニー・マガジンズ